はるかな広がりのほんの一部を切り取るだけしかできないが、ツォ・カルはこんなところ。ラダックの中心、レーの町から南東方向へ、5300mのタグラン・ラを越えて、車で4時間ほど。
もうあと2時間ほどいくと近年パンゴン・ツォについで人気のツォ・モリリがある。
チベット語でツォは湖の意である。
5300mのタグラン・ラはまだ積雪があった。足で登らずいけた峠は、車で行けば楽かというとそうでもない。なぜなら雪解け水による道路の崩壊でガタガタだからだ。途中、には落ちて転がった重機やトラック。
その峠をめざして、なんと・・・
自転車に乗る人たちがいた。1人や2人ではない、次々と現れる彼ら。どうみてもおじさんばっかり。こんな道だから自転車はマウンテンバイクだ。
なにか多分、サイクリングのレースで有名なのだろう。
通行のできる世界最高の峠、カルドゥン・ラがインダス川の北側にあるが、ここは世界で最も過酷といわれるマラソンレース「ラ・ウルトラ・ザ・ハイ」のルートになる。
公称5600mだが、GPSでは5359mだそうだ。だからタグラン・ラも正確にはどうなのかわからないが。
雪が解け落ちたほとばしる流れを徒渉せねばならない。
道の穴ぼこや崩れた段差は30㎝はあろうかというもので、どこを通るかドライバーさんも見極めに必死だ。
ほぼ登りあがったあたりから後を振り返る。はるか彼方に通ってきた道路。
このあたりは軍の通路にもなっていて、途中20台ほどのトラックを抜くのにドライバーさんが往生していた。
峠を越えると、カシミアヤギの放牧があちこちに見られた。遊牧民たちはヤギを放して、夏の間はこのあたりで幕営する。
冬になると低いところに下りていくのだそうだ。
カシミアヤギ。あっちにもこっちにも群れがいた。
前回のパンゴン・ツォでも見た。カシミヤは土地の重要な産業である。
レーの町では品質のよいカシミヤ製品がたくさん売られていた。
が、お土産屋さんには中国からはいったものもあるようなので、できたらラダックの土地の人のものを買ってほしい。
どこを見ても本当に気持ちが安らぐのだ。
多分前世、こんなところで暮らしていたんだと思う。
色とりどりの地層。地球ってこんなふうにできているんだな。
思うに、岩や地盤はエネルギーを持っている。地球の内部からでてきたものだから。
岩や地盤が素晴らしいところにいくととても生命力が高まるというか元気になるというか幸せになる。だから私は山が好き。
人間がどうやったらこれをつくれる?作れないね、絶対。
美しい村。黄色いのはアブラナ科ではあろうが、菜の花ではない。
油も菜種油は使わないといっていた(インドはほとんど大豆油)。
たぶんこれはマスタードの花。
4K大画面液晶テレビもないだろう。インターネットもあっても脆弱だろう。電気も止まるし来ないところもある。水も汲んできて貯めたものを使うだろう。トイレは穴に落とす式。水が貴重だからお風呂もなく体を洗うスパンも長い。便利なもの贅沢なものにはかなり縁遠い生活だろう。
だけれど人々は穏やかで幸せそうだ。親切で、知らない人同士でも会えばかならず挨拶をし、お互いに教えたり教えられたり、それは悪い人がいない(いても少ない)からだろう。信頼と善意にあふれているからだろう。物はなくても善き日々を送り、幸せな時間が過ごせる。祝福された人生を送れる。くだらない情報に振り回されて猜疑心にさいなまれることもない。
ここで毎日野菜を育てたり家畜の世話をしながら編み物や織物をしたり、なんのしがらみもなかったらここに住みたい。
本もインターネットもなにもなく、歩いて寝て食べるだけの5泊6日だったが、この上もなく幸せだった。